2020/12/21 CAPTA 声明 

子どもの虐待防止 2020年を振り返る 

 2020年の年末を迎えて、子どもの虐待防止ネットワーク鳥取が子どもの虐待防止の視点で振り返りました。

過去最大の児童虐待認知件数

  ~真のアドボカシーの構築に向けて~

2019年度に全国の児童相談所に寄せられた児童虐待件数が過去最大の19万3780件にのぼった。前年度比21.2%の増加であり、増加率・増加数としても過去最大である。相談内容としては、心理的虐待が56.3%と増加傾向が顕著である。相談経路の内、警察等からのものが49.8%と際立っている。それに比べて、児童本人からのものは0.9%と、10年前に1.3%であったことと比べても顕著に比率が低下している。

 このような数字から何が読み取れるのだろうか。2019年1月に千葉県野田市の小学校4年生栗原心愛ちゃんが父親による虐待で死亡した事件を思い起こさずにはおられない。心愛ちゃんが「お父さんにたたかれたのはうそ」、「児童相談所の人にはもう会いたくない」という書面を父親に書かされたことを察知しながら、児童相談所は有効な対処ができなかった。その後も虐待死は後を断っていない。

栗原心愛ちゃん(写真は報道資料から引用しました。)

 このような深刻な事態の背景に、子どもが依然として父母等の従属的存在にとどまっていることがある。子どもの個性、多様性の尊重が叫ばれながらも、形だけのものになっている。日本が26年前に批准した国連子どもの権利条約第12条では、「その児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する」「児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、(略)直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会をあたえられる。」とされているにもかかわらず、現実には、子どもが自ら声を上げることに様々な制約があるだけでなく、子どものSOSを察知し適切に関係機関に繋げる有効な制度も存在しない。国連子どもの権利委員会は、日本のこのような現状に対して、過去4回(1988年6月、2004年1月、2010年6月、2019年3月)にわたって警鐘を鳴らし、独立した子どもの権利救済機関などの整備を求めている。また、第4回勧告では、「意見を聴かれる権利を子どもが行使できるようにする環境を提供する」とし、子どもが自ら声を上げることのできない状況の改善を強く求めている。

 このような状況を変える制度として、子どもアドボカシーの導入が求められている。子どもアドボカシーは、欧米において、障害などのために声を上げることが困難な子どもなどのための制度として、福祉の領域を中心に発展してきた。「子どもの声を運ぶこと」(イタリア)、「子どものマイクになること」(イギリス)、「子どもの声を持ち上げること」(カナダ)などと説明されている。日本では、これまで、養護施設関係者、子どもにかかわるNPO、研究者などが、子どもの声を社会に反映させ、大人中心の社会構造を変革するなかで、子どもを守るシステムとしてその導入を求めてきた歴史がある。

 このような動きに突き動かされる形で、厚労省は、2017年の「新しい社会的養育ビジョン」(以下「新ビジョン」)の中において、アドボカシー制度の必要性に言及した。新ビジョンに対しては、児童養護施設を解体して、社会的養護を全て里親に託すという、すでに欧米では破綻した制度を、一部の学者や政治家が社会的養護実状や当事者の意見を無視して強力に推し進めようとするものだとして、強い批判にさらされ、その実施をめぐっての激しい攻防が現在進行形であるが、子どもアドボカシーの必要性に言及した点においては大きな前進である。

 その後の2019年6月、児童福祉法のなかに始めて国連子どもの権利条約の意見表明権等の基本理念が位置付けられたが、その際、「子どもが意見を述べることを支援するための制度を構築し、子どもの最善の利益を確保するため、いわゆるアドボケイトの導入に向けた検討を早急に行うこと」とする参議院付帯決議がなされ、日本における子どもアドボカシー制度の導入の本格的検討が始まろうとしている。

 我々は、どのような子どもアドボカシーを創り出すのか。あくまでも、官主導では無く、これまで子どもにかかわってきた多くの市民、専門家、研究者、関係諸団体、そしてなによりも、国連子どもの権利条約第12条の精神に基づき子ども自身が参画できるものにしなければならない。

  2020.12

子どもの虐待防止ネットワーク鳥取 理事長  安田寿朗

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